Researchを扱う
大量の声やデータを整理し、仮説と論点を発見する。
Experience System — 基礎研究 · v0.1
最高の顧客体験を、個人の経験やセンスではなく、組織が繰り返し生み出せる仕組みへ。
※本稿で紹介する「Experience System」は、鳥越康平が提唱し、現在研究・実践を進めている考え方です。現時点の中心仮説と構造を共有する研究ノートであり、業界標準や完成済みのメソッドを主張するものではありません。
01 / The age of accelerated making
Researchの整理からUI generation、Prototype、Code、Design QAまで。AIは、プロダクト開発の実行部分を急速に高速化しています。
大量の声やデータを整理し、仮説と論点を発見する。
要件から複数の画面案、Content、Interactionを短時間で展開する。
設計と実装の往復を減らし、検証できるものを早くつくる。
ルールとの不整合やEdge Caseを、人間とともに探索する。
02 / Machine-readable design knowledge
AIにブランド、Design System、ComponentのUsage、Visual / Interaction rules、Accessibility、Constraintsを理解させるために、design.mdのような機械可読なDesign Knowledgeを持たせるアプローチが重要になり、広がりつつあります。
これは非常に重要です。AIが毎回ばらばらなUIをつくる問題を減らし、チームが蓄積してきた設計ルールを、人間とAIが同じ前提として参照できるようにします。
ブランドやComponentの使い方が出力ごとに揺れる。
UIの一貫性、操作性、Accessibilityを強く統制できる。
design.mdという名称や構成自体を業界標準として主張するものではありません。ここでは、AIが参照できる形でDesign Knowledgeを構造化する実践の総称として扱っています。
03 / The missing decision layer
Design SystemとDesign Knowledgeは、UIの一貫性、操作性、Accessibility、Visual / Interaction rulesを強く統制できます。一方で、「この状況の人に、どんな望ましい体験を生み出すべきか」という上位判断までは、十分に表現しにくい。
たとえば、Buttonの色、Spacing、Component、Interaction、Accessibility、文言ルールを完全に守っていても、初めて100万円を振り込む人が、不安な状態から内容を十分に理解し、確信を持って安心して完了できるかは自動的には決まりません。
従来、この判断は優秀なUX Designer、Design Lead、Product責任者の頭の中にありました。誰のためか。今どんな状況か。何を理解してほしいか。どんな状態へ変化させるか。何をあえてしないか。組織が大きくなるほど、この暗黙知を再現できず、Productや担当者ごとにUX品質がぶれます。
04 / The idea of experience.md
experience.mdは、企業・ブランド・プロダクトが目指す体験、Human Stateの変化、Experience PrinciplesやPatternsを、人間とAIの双方が参照できるKnowledgeとして構造化する発想です。
ファイル名そのものが目的ではありません。重要なのは、体験に関する上位判断を、個人のセンスから切り離すのではなく、根拠を失わずに共有・検証・更新できる状態へ移すことです。
一つの巨大なMarkdownにすべてを詰め込まず、判断の責務ごとにKnowledgeを分けます。これによりAIも人間も、「体験の方針」「今回の文脈」「満たす条件」「表現方法」「検証結果」を混同せずに参照できます。
experience.mdどんな体験を生み出すか共有するExperience Principles、目指すHuman State、Semantic Experiences、再利用可能なPatterns、避けるべき体験を定義する。
product.mdなぜ、このProductが存在するかBusiness / Product Vision、対象ユーザー、提供価値、成功の定義、Product固有の制約を記述する。
scenario.md誰が、どんな状況で使うかUser、Before Human State、Goal、利用環境、頻度、緊急性、既知の不安やEdge Caseを具体化する。
requirements.md何を満たさなければならないか機能、情報、業務、法務、Accessibility、Privacy、安全性、受入条件を明確にする。
design.mdどう表現し、どう振る舞わせるか情報設計、Content、Interaction、Layout、Component usageとDesign Systemへの接続を定義する。
validation.md体験は本当に生まれたか検証方法、Success / Harm signals、観察結果、未解決点、Libraryへ戻す学びを記録する。
experience.md→product.md→scenario.md→requirements.md→design.md→Prototype / Product→validation.md↺ Experience Libraryへ
上流のファイルほど全社・複数Productで共有し、下流ほど個別のProductやScenarioへ具体化します。experience.mdで組織が大切にする体験判断を定め、scenario.mdで今回のユーザー、状況、Before Human Stateを具体化し、design.mdで必要なUI、Content、Interactionへ表現します。そしてvalidation.mdの結果をExperience Libraryへ戻すことで、次の設計に使える知識へ更新します。
組織規模やProductによって、Principles、Content、Research、Constraintsを別ファイルへ分割しても構いません。重要なのは名称を揃えることではなく、各Knowledgeの責務、参照順、Owner、更新方法を明確にすることです。
Knowledgeを渡せば自動的に最高のUXになる、という意味ではありません。Contextの質、相互の整合性、実ユーザーによる検証、そして人間の判断が必要です。
05 / From a file to a system
案件ごとに一つのファイルを書くだけでは、体験知は蓄積されません。Experience Principles、Primitives、Semantic Experiences、Components、検証結果を元帳化し、個別のScenarioへ適用して初めて、組織が育てられるSystemになります。
Experience Systemは、体験判断を再利用可能な単位へ構造化し、Web、App、SaaS、Contact Center、店舗、Supportへ展開するための研究中のアプローチです。
どうすれば、優れた体験判断を案件の成果物だけで終わらせず、次のProduct、次の担当者、次のChannelでも使える組織資産にできるか。
06 / Working hypothesis
現在の中心仮説は、体験を「人の状態が、働きかけによって変化すること」と捉えることです。画面や機能そのものではなく、その前後で人がどう変わったかを見る。
「安心」はExperience Primitiveではなく、働きかけの結果として生まれるHuman Stateと考えられます。Primitiveは、安心を生み出す Reassure のような働きかけです。この境界は、現在も検証中です。
07 / System architecture
Human StateはSystemが働きかける前のInputと、結果として観察するOutcomeです。その間に、体験判断のKnowledgeと、Scenarioに適用された具体的なExperience Instanceがあります。
この構造はDesign SystemのToken階層を写すためのものではありません。Experience固有の状況、Human State、介入、検証、Channel表現を扱うために必要な境界を、実践から定めていきます。
08 / Case study
金額の大きさ、操作の不慣れ、取消できない可能性。これは単なる「確認画面」ではなく、重要な意思決定に確信を持たせる体験です。
重要な意思決定に確信を持たせる
09 / Cross-industry reuse
UIをそのまま流用するのではなく、人の状態を変える構造を再利用します。だからチャネルや業種が変わっても、判断の共通部分を残せます。
Uncertainty Reduction
First-time Preparation Experience。検査の目的、当日の流れ、準備物、所要時間、次の連絡を明確にし、未知への不安を減らす。
Purchase Confidence
High-consideration Purchase Experience。寸法、素材、設置、納期、返品条件を統合し、長く使う買い物への確信を支える。
10 / Shared ledger
再利用可能なExperience Componentsを組織で共有し、実践と検証から得た知見を更新し続ける場所です。
Web、App、Contact Center、店舗では、表現や実装は異なります。それでも「どのHuman Stateに対して、どんな働きかけを行い、どの状態を目指すか」という体験構造は共有できます。
11 / AI as an engine
AIはExperience System、Product Context、Scenario、Requirements、Design Systemを参照し、Generate / Review / Discover / QAを行います。
人間は、最高のExperienceの定義、優先順位、倫理、採用判断、実ユーザーによる検証、System自体の改善に責任を持ちます。
この構造は唯一の正解ではありません。どのContextを分離し、どの段階で人が判断し、AIにどこまで委ねるべきかを、実際のプロジェクトを通じて検証しています。
12 / Organizational adoption
優秀な一人のUX判断が、成果物には現れても、判断基準として組織に残らない。
PM、Designer、Engineer、Businessが、共通の判断基準を使って設計・検証・改善する。
13 / Open Questions
Experience Systemを実際のプロダクトや組織で使い、何がどれだけ良くなるのかを、データで確かめていきます。