UI/UXの本質1 / 16

AIによるUI制作の民主化

UIを作る技術は、急速に開かれている

この5年ほどで、UI/UXを取り巻く環境は大きく変わった。

少し前まで、UIを作るにはFigmaのような専門的なソフトウェアを使いこなし、画面を一つずつ設計する必要があった。

デザインパターンを考え、画面同士のつながりを確かめ、余白や文字サイズ、コンポーネントの使い方まで、人間が細かく確認していた。

現在はFigmaをはじめとするUI制作ツールにもAIが組み込まれている。

要件を伝えるだけで複数のデザインパターンが短時間で生成され、画面遷移の矛盾やUIフローの整合性も確認できる。

以前は人間が時間をかけて行っていた細かなチェックまで、AIが支援するようになった。

その結果、UI制作の速度は劇的に上がっている。

何日もかけていた作業が数時間で終わり、場合によっては数分で最初の形まで作れるようになった。

しかも、作業時間の短縮に加えて、作る人の範囲も広がっている。

これまで専門家にしか扱えなかった制作工程そのものが、専門知識を持たない人にも開かれ始めているのである。

この変化に先立って、制作の道具が専門家以外へ広がる動きは、すでに始まっていた。

自分で画面を作れるようになると、企業の仕事はどう変わるのか。私はヤマト運輸の現場で、その変化を見てきた。


AI以前にも、制作の民主化は始まっていた

私は、ヤマト運輸に業務委託として参画し、5年近く仕事をしていた。

参画した当初は、一つのプロダクトに関わっていた。

仕事を続けるなかで任される領域が次第に広がり、やがて多くのプロダクトのUI/UXを担うまでになった。

当時のヤマト運輸には、独立したデザイン部門がなかった。

そのため、正式な役職名はなかったが、複数のプロダクトを横断してデザインの方向性を考え、品質や一貫性を支える役割も担うようになった。

実質的には、デザインディレクターに近い仕事である。

働き始めた頃、社内にはUI/UXを専門に作る人も、Figmaを使える人もほとんどいなかった。

当時、多くの社員は、UI制作を専門部署や外部の専門家へ依頼する仕事だと捉えていた。

新しい画面や業務フローを考えても、まず言葉や資料で担当部署へ説明し、制作を待ち、完成したものを確認する必要があった。

伝えたかったことと出来上がった画面にずれが生じていれば、再び意図を説明して修正を依頼する。

こうしたやり取りには時間がかかり、考えた本人がその場で試すことも難しかった。

しかし、Figmaの使い方やUI/UXの考え方を少しずつ根気強く伝えていくと、社内の状況は明確に変わっていった。

最初はFigma上の画面を見るだけだった人が、自分で触り、簡単な修正をし、やがて自分の考えた画面やUIフローを直接作るようになった。

最終的には、UI制作を専門としない多くの人がFigmaを使い、自分たちの業務や顧客体験を自分たちの手で形にしていた。

自分で画面を作れるようになったことで、仕事の進め方そのものが変わったのである。

頭の中にあるアイデアを、自分で形にし、その場で試し、周囲と議論できる。

Figmaの導入だけでも、これほど大きな変化が生まれた。

そこへAIが加われば、この流れはさらに速く、さらに広い範囲へ進んでいく。


UI制作の主導権が、企業の中へ戻ってくる

AIによるUI制作の民主化が企業にもたらす最大の変化は、制作の主導権が現場へ戻ってくることである。

画面を作るたびに専門部署へ依頼し、完成を待ち、修正の意図を説明する必要は少なくなっていく。

顧客の課題や業務の実態を最もよく理解している人が、自分でたたき台を作れる。

その場で関係者に見せ、利用者に試してもらい、得られた反応をすぐに次の画面へ反映できる。

企画から制作、検証、改善までを、課題を理解している人の近くで進められるようになる。

その結果、企画から検証までの時間が短くなり、意思決定の速度も上がる。

依頼と確認の往復で失われていた時間が減り、言葉だけでは伝わりにくかった意図を、実際に触れられる画面として共有できるようになる。

UI制作の進め方の変化 これまでは課題を知る人が専門部署へ依頼し、制作を待ち、確認と修正を経て利用者に試した。AIが加わると課題を知る人がその場で形にし、すぐ試して反応から直せる。 これまで 課題を知る人専門部署へ依頼制作を待つ画面を確認し修正を依頼利用者に試す 意図の説明と確認を往復する AIが加わると 課題を捉えるAIと形にするすぐに試す反応から直す
UI制作の進め方の変化 これまでの依頼と確認の往復と、AIが加わった後のその場で作り試す工程を上下に比較する。 これまで 課題を知る人専門部署へ依頼制作を待つ画面を確認・修正利用者に試す 意図の説明と確認を往復する AIが加わると 課題を捉えるAIと形にするすぐに試す反応から直す 課題の近くで、試して直す

アイデアを思いついてから検証するまでの時間が短くなれば、企業が試せる選択肢そのものが増えていく。

複数の部署やプロダクトがそれぞれ自由に画面を作れば、体験がばらばらになる可能性はある。

だからこそ企業には、共通のデザインルール、再利用できるコンポーネント、判断の基準、品質を確認する仕組みが必要になる。

誰が画面を作っても一定の品質へ到達できる環境を整えるのである。

UI制作が民主化されることで、企業は制作を外部へ依頼するだけの立場から、自ら体験を作り、試し、改善する立場へ変わる。

UIを作れることは、企業が継続的に持つべき組織能力になっていく。


UI制作の民主化は、もう始まっている

かつては、画面を一つ作るたびに専門部署へ依頼し、細かな修正まで何度も確認しなければならなかった。

これからは、現場で課題を最もよく理解している人が、自分でUIやフローのたたき台を作り、すぐに試せるようになる。

企画担当者、業務担当者、エンジニア、営業担当者など、これまで制作の外側にいた人たちも、UIを通して自分の考えを直接表現できる。

専門家に依頼しなければ形にできなかった時代から、誰もが自分で形を作れる時代へ。

UI制作の民主化とは、まさにこの変化のことである。

作る技術は、これからさらに多くの人へ開かれていく。

だからこそ、ツールを使う技能とともに、何を作るかを選ぶ判断が価値を持つ。

何を作るのか。

なぜ作るのか。

そのプロダクトは、誰にどのような体験を届けるのか。

誰もがUIを作れる時代には、こうした問いに答え、何を世の中に出すかを決める人間の判断が、プロダクトの違いを生む。