UI/UXの本質6 / 16

コンセプトが機能、言葉、動きまで決める

コンセプトという言葉は、曖昧に使われている

プロジェクトの中では、「この商品のコンセプトは何か」「まずコンセプトを決めよう」といった言葉が頻繁に使われる。

しかし、コンセプトという言葉が何を指しているのかは、意外なほど曖昧である。

商品の特徴を短くまとめた言葉をコンセプトと呼ぶこともある。

広告で使うキャッチコピーをコンセプトと呼ぶこともある。

あるいは、見た目の雰囲気や世界観だけを指して、コンセプトと呼ぶこともある。

意味の捉え方が違えば、会議では同じ言葉にうなずいていても、機能を決める人、画面を設計する人、言葉を書く人が、それぞれ違う方向へ進んでしまう。

だからまず、ここではコンセプトという言葉の意味を明確にしておきたい。

この本では、コンセプトを、思想を具体的な形へ変えるための設計原理として捉える。

思想を、設計できる具体性まで引き下ろす

思想は、そのプロダクトがなぜこの世界に存在するのかを示す。

その答えを個々の機能や画面へ反映するには、具体的な判断に使えるところまで考えを進める必要がある。

コンセプトは、思想を実現するために、そのプロダクトがどのような原理で設計されるべきかを定める。

思想・コンセプト・設計の三層思想をコンセプトという設計原理に変え、機能・言葉・動き・見た目へ反映する。 思想何を実現したいか コンセプト何を基準に設計するか 機能 言葉 動き 見た目
思想・コンセプト・設計の三層思想をコンセプトという設計原理に変え、機能・言葉・動き・見た目へ反映する。 思想何を実現したいか コンセプト何を基準に設計するか 機能 言葉 動き 見た目

前の節で考えた制約は、何を優先し、何を守るかという条件を示す。

コンセプトでは、その条件の中で、どのような仕組みによって価値を実現するかを定める。

つまり、思想が「何のために存在するのか」を示すものなら、コンセプトは「その思想を、どのような原理によって実現するのか」を示すものである。

その原理を言葉にすることで、異なる領域の設計にも共通の判断基準を持たせられる。

コンセプトが、思想と具体的な設計をつなぐ

思想を機能、言葉、動き、見た目へ反映するとき、コンセプトが設計の判断基準になる。

思想として定めるのは、そのプロダクトを通して、誰に、どのような価値を届けたいのかということである。

その価値を実現するために、どのような仕組みでプロダクトを作るのかを考える。

そこで定めた設計原理が、コンセプトである。

そのコンセプトをもとに、機能、言葉、動き、見た目を具体的に決めていく。

どの機能を入れるのか。

どのような構造にするのか。

どの言葉を使い、どのように動かすのか。

最終的に、どのような形や表現にするのか。

これらは、コンセプトによって導かれる。

思想から直接、細部の形を決めようとすると、設計者によって解釈が分かれやすい。

しかし、間に明確なコンセプトがあれば、異なる領域を担当する人たちも、同じ原理から判断できるようになる。

ゴルフの設計を導いたコンセプト

ゴルフの設計にも、思想を形にするためのコンセプトがある。

「限られた大きさの車でも、人が快適に過ごせるようにしたい」。これが実現したい価値であり、思想である。

では、その価値を具体的に実現するには、何を基準に車を設計すればよいのだろうか。

ここでは「車体をコンパクトに保つ」という制約のもとで、「機械の占める空間を抑え、人と荷物のための空間を広く取る」という設計原理を置く。

すると、エンジンの配置、座席の構造、荷室の使い方、外側の形まで、一つの基準から判断できるようになる。

このように、届けたい価値と守るべき条件を、構造を選ぶための判断へつなぐのがコンセプトの働きである。

ゴルフの思想から設計判断まで 思想は限られた大きさの車でも人が快適に過ごせること。車体をコンパクトに保つ制約を踏まえ、機械の空間を抑えて人と荷物の空間を広く取るコンセプトが、エンジン、座席、荷室、外側の形の判断につながる。 思想|実現したい価値 限られた大きさでも、人が快適に過ごせる 制約|守る条件 車体をコンパクトに保つ コンセプト|設計原理 機械の空間を抑え、 人と荷物の空間を広く取る 同じ原理から、設計を判断する エンジンの配置 座席の構造 荷室の使い方 外側の形
ゴルフの思想から設計判断まで 人が快適に過ごせる車という思想、車体をコンパクトに保つ制約、機械の空間を抑えて人と荷物の空間を広く取るコンセプトが、四つの設計判断につながる。 思想|実現したい価値 限られた大きさでも、 人が快適に過ごせる 制約|守る条件 車体をコンパクトに保つ コンセプト|設計原理 機械の空間を抑え、 人と荷物の空間を広く取る 同じ原理から設計を判断する エンジンの配置 座席の構造 荷室の使い方 外側の形

UXでは、機能も言葉も動きも設計する

この原則は、UI/UXにおいても同じである。

UXでは、画面の見た目から使うときの振る舞いまで設計する。

まず、どのような機能を持たせるのかを決める。

どの機能を最も目立たせ、どの機能をあえて入れないのか。

ユーザーにどのような順番で行動してもらうのか。

これらはすべて、コンセプトから判断される。

次に、言葉遣いを決める。

ユーザーへどのような距離感で語りかけるのか。

専門的な言葉を使うのか、日常的な言葉へ置き換えるのか。

行動を促すとき、強く導くのか、選択の余地を残すのか。

エラーが起きたとき、何が起きたかを伝えるだけなのか、それとも次に取るべき行動まで支えるのか。

言葉の一つひとつにも、コンセプトが現れる。

さらに、インタラクションや動きを決める。

ボタンを押したときに、どのように反応するのか。

画面は瞬時に切り替わるのか、連続性を感じられるように移動するのか。

重要な変化を、動きによって強く伝えるのか。

音を使うなら、どの場面で、どの程度の強さで鳴らすのか。

こうした動きや音も、体験を形づくる要素として考える。

コンセプトを、時間の中で感じられる体験へ変えるための設計である。

見た目や表現も、コンセプトの結果である

見た目や表現も、機能、言葉、動き、音と同じく、コンセプトという設計原理に基づいて決めていく。

どのような色を使うのか。

どのような書体を選ぶのか。

写真やイラストを、どのような温度感で見せるのか。

画面の情報量をどこまで絞るのか。

余白を広く取るのか、密度を高くするのか。

これらは、使う場面とコンセプトに照らして選ぶ。

さらに細部へ進めば、ボタンの角をどの程度丸くするのか。

文字の太さをどこまで強くするのか。

一本の線を、どの太さと濃さで引くのか。

フォントの一文字一文字を、どのような大きさと間隔で見せるのか。

そうした小さな判断でも、同じ設計原理に立ち戻る。

角の丸みや線の太さは、実際の画面で見やすさや印象を確かめながら調整する。そのときにも、どの表現が届けたい体験に合うかを、コンセプトから判断する。

なぜこの形なのかと問われたときに、コンセプトとの関係から理由を説明できる状態を作る。

一つの原理が、プロダクト全体を揃える

プロダクトづくりには、機能を考える人、言葉を書く人、動きを実装する人、見た目を設計する人が関わる。

それぞれの判断を一つの体験へまとめるために、共通のコンセプトを使う。

機能、言葉、動き、音、見た目、そして細部の表現までが、同じ思想を実現するために働き始める。

触れるすべての場所から同じ価値が伝わることで、ユーザーは、そのプロダクトが何を大切にしているかを実感できる。

その一貫性を作る中心にあるものが、コンセプトである。

コンセプトは、最初の設計から、その後の機能追加や改善まで、作り続ける間に繰り返し使う設計原理なのである。

思想が、そのプロダクトの存在理由を定める。

コンセプトが、その思想を形にするための原理を定める。

そして、一つひとつの設計が、その原理に従って一つの体験を作る。

思想が機能、言葉、動き、形といった細部まで行き渡ったとき、プロダクトは固有の価値を持った一つの存在になる。