コンセプトが機能、言葉、動きまで決める
コンセプトという言葉は、曖昧に使われている
プロジェクトの中では、「この商品のコンセプトは何か」「まずコンセプトを決めよう」といった言葉が頻繁に使われる。
しかし、コンセプトという言葉が何を指しているのかは、意外なほど曖昧である。
商品の特徴を短くまとめた言葉をコンセプトと呼ぶこともある。
広告で使うキャッチコピーをコンセプトと呼ぶこともある。
あるいは、見た目の雰囲気や世界観だけを指して、コンセプトと呼ぶこともある。
意味の捉え方が違えば、会議では同じ言葉にうなずいていても、機能を決める人、画面を設計する人、言葉を書く人が、それぞれ違う方向へ進んでしまう。
だからまず、ここではコンセプトという言葉の意味を明確にしておきたい。
この本では、コンセプトを、思想を具体的な形へ変えるための設計原理として捉える。
思想を、設計できる具体性まで引き下ろす
思想は、そのプロダクトがなぜこの世界に存在するのかを示す。
その答えを個々の機能や画面へ反映するには、具体的な判断に使えるところまで考えを進める必要がある。
コンセプトは、思想を実現するために、そのプロダクトがどのような原理で設計されるべきかを定める。
前の節で考えた制約は、何を優先し、何を守るかという条件を示す。
コンセプトでは、その条件の中で、どのような仕組みによって価値を実現するかを定める。
つまり、思想が「何のために存在するのか」を示すものなら、コンセプトは「その思想を、どのような原理によって実現するのか」を示すものである。
その原理を言葉にすることで、異なる領域の設計にも共通の判断基準を持たせられる。
コンセプトが、思想と具体的な設計をつなぐ
思想を機能、言葉、動き、見た目へ反映するとき、コンセプトが設計の判断基準になる。
思想として定めるのは、そのプロダクトを通して、誰に、どのような価値を届けたいのかということである。
その価値を実現するために、どのような仕組みでプロダクトを作るのかを考える。
そこで定めた設計原理が、コンセプトである。
そのコンセプトをもとに、機能、言葉、動き、見た目を具体的に決めていく。
どの機能を入れるのか。
どのような構造にするのか。
どの言葉を使い、どのように動かすのか。
最終的に、どのような形や表現にするのか。
これらは、コンセプトによって導かれる。
思想から直接、細部の形を決めようとすると、設計者によって解釈が分かれやすい。
しかし、間に明確なコンセプトがあれば、異なる領域を担当する人たちも、同じ原理から判断できるようになる。
ゴルフの設計を導いたコンセプト
ゴルフの設計にも、思想を形にするためのコンセプトがある。
「限られた大きさの車でも、人が快適に過ごせるようにしたい」。これが実現したい価値であり、思想である。
では、その価値を具体的に実現するには、何を基準に車を設計すればよいのだろうか。
ここでは「車体をコンパクトに保つ」という制約のもとで、「機械の占める空間を抑え、人と荷物のための空間を広く取る」という設計原理を置く。
すると、エンジンの配置、座席の構造、荷室の使い方、外側の形まで、一つの基準から判断できるようになる。
このように、届けたい価値と守るべき条件を、構造を選ぶための判断へつなぐのがコンセプトの働きである。
UXでは、機能も言葉も動きも設計する
この原則は、UI/UXにおいても同じである。
UXでは、画面の見た目から使うときの振る舞いまで設計する。
まず、どのような機能を持たせるのかを決める。
どの機能を最も目立たせ、どの機能をあえて入れないのか。
ユーザーにどのような順番で行動してもらうのか。
これらはすべて、コンセプトから判断される。
次に、言葉遣いを決める。
ユーザーへどのような距離感で語りかけるのか。
専門的な言葉を使うのか、日常的な言葉へ置き換えるのか。
行動を促すとき、強く導くのか、選択の余地を残すのか。
エラーが起きたとき、何が起きたかを伝えるだけなのか、それとも次に取るべき行動まで支えるのか。
言葉の一つひとつにも、コンセプトが現れる。
さらに、インタラクションや動きを決める。
ボタンを押したときに、どのように反応するのか。
画面は瞬時に切り替わるのか、連続性を感じられるように移動するのか。
重要な変化を、動きによって強く伝えるのか。
音を使うなら、どの場面で、どの程度の強さで鳴らすのか。
こうした動きや音も、体験を形づくる要素として考える。
コンセプトを、時間の中で感じられる体験へ変えるための設計である。
見た目や表現も、コンセプトの結果である
見た目や表現も、機能、言葉、動き、音と同じく、コンセプトという設計原理に基づいて決めていく。
どのような色を使うのか。
どのような書体を選ぶのか。
写真やイラストを、どのような温度感で見せるのか。
画面の情報量をどこまで絞るのか。
余白を広く取るのか、密度を高くするのか。
これらは、使う場面とコンセプトに照らして選ぶ。
さらに細部へ進めば、ボタンの角をどの程度丸くするのか。
文字の太さをどこまで強くするのか。
一本の線を、どの太さと濃さで引くのか。
フォントの一文字一文字を、どのような大きさと間隔で見せるのか。
そうした小さな判断でも、同じ設計原理に立ち戻る。
角の丸みや線の太さは、実際の画面で見やすさや印象を確かめながら調整する。そのときにも、どの表現が届けたい体験に合うかを、コンセプトから判断する。
なぜこの形なのかと問われたときに、コンセプトとの関係から理由を説明できる状態を作る。
一つの原理が、プロダクト全体を揃える
プロダクトづくりには、機能を考える人、言葉を書く人、動きを実装する人、見た目を設計する人が関わる。
それぞれの判断を一つの体験へまとめるために、共通のコンセプトを使う。
機能、言葉、動き、音、見た目、そして細部の表現までが、同じ思想を実現するために働き始める。
触れるすべての場所から同じ価値が伝わることで、ユーザーは、そのプロダクトが何を大切にしているかを実感できる。
その一貫性を作る中心にあるものが、コンセプトである。
コンセプトは、最初の設計から、その後の機能追加や改善まで、作り続ける間に繰り返し使う設計原理なのである。
思想が、そのプロダクトの存在理由を定める。
コンセプトが、その思想を形にするための原理を定める。
そして、一つひとつの設計が、その原理に従って一つの体験を作る。
思想が機能、言葉、動き、形といった細部まで行き渡ったとき、プロダクトは固有の価値を持った一つの存在になる。