作ることが簡単になるほど、作らない力が必要になる
作ることが、考える過程に入ってくる
AIを使えば、思いついたアイデアを短い時間で触れられる形にできる。
試作品を作り、実際に触れて使い心地を確かめる方法は、以前からある。
ただ、試作には時間と人手がかかるため、形にして比べられる案の数は限られていた。
そのため、先に資料や議論で候補を絞り、選んだ案を試作することが多かった。
AIによって試作が速くなると、考えている途中の案を、いくつも形にして比べられる。
画面の説明を読むだけでは気づかなかった使いにくさも、実際に触れると見えてくる。
触れて見つけた問題を手がかりに、操作を直す案も、機能そのものを外す案も試せる。
自分のためなら、まず作って使えばよい
毎日繰り返す作業を自動化する。
自分に合った記録方法を作る。
趣味のための小さなアプリを作る。
自分で使う道具なら、最初の使い手は自分自身である。
まずは必要な部分を形にし、普段の生活や仕事の中で使ってみる。
一度動いたところで終わりにせず、翌日も使いたいか、繰り返す操作が負担にならないかを確かめる。
使いにくければ直し、使わない機能は外す。
企業の中でも、この始め方には価値がある。
たとえば、毎日いくつもの資料から情報を集めて報告する担当者が、自分の作業を助ける道具を作る。
実際の仕事で使えば、どの情報を先に見たいか、どこで手間が残るかが分かる。
情報を集める時間が減ったか、報告に必要な情報が揃うかを、日々の仕事の中で確かめられる。
まずは自分が満足して使い続けられるところまで作る。
ほかの人にも届けるかどうかは、その先で考えればよい。
多くの人に届けるなら、選ばれる理由が必要になる
一方、多くの人に使ってもらうプロダクトは、作り手が使う道具とは条件が違う。
使う人は、すでに持っている道具やほかのサービスと比べて、自分の時間を使う価値があるかを判断する。
だから作り手は、誰のどのような状況を良くするのかを明確にし、その人が使う理由を形にする。
初めて見たときに、自分のためのものだと分かる。
使い始めると、期待したことが実際にできる。
使い続ける中で、必要なときにまた頼れる。
選ばれる理由は、説明文だけでなく、使う人が経験することの中にある。
思想から、作るものを選ぶ
作れる案が増えた今、どの案に時間を使うかを決める基準が必要になる。
その基準として、ここまで考えてきたのが思想である。
誰の、どのような状況を変えるために、このプロダクトを作るのか。
その答えがあれば、思いついた機能を一つずつ、届けたい価値に照らして選べる。
使う人にとって大切なことへ力を集中させるために、作らないものも決める。
思想を形にするときには、何を優先するかという制約を定める。
その制約の中で、価値をどのような仕組みで実現するかを示すのがコンセプト、つまり設計原理である。
そのコンセプトをもとに、機能、画面の構成、色や形、言葉、動き、音を一つずつ具体的に設計していく。
使う人の現実に置いて、確かめる
設計するときには、プロダクトに触れる人が、どこで、何をしながら使うのかを思い描く。
使う前に置かれている状況と、使った先に生み出したい状況を描き、その間でプロダクトが担う役割を考える。
さらに、画面を一つの応答として捉える。
ユーザーはその場で何を知り、何をしようとしているのか。
提供する側は、何を伝え、どのように次へ導くのか。
対話として考えることで、情報を見せる順番や操作への反応も、使う人の状況に合わせて設計できる。
形にした案は、実際に触れてもらう。
思い描いた状況が生まれるかを確かめ、必要なら思想に立ち戻って、制約やコンセプト、設計を見直す。
約束した価値を、細部まで届ける
使う人は、機能や画面を通して、プロダクト全体を一続きの体験として受け取る。
最初に伝えた価値が、使い始めから使い続ける間まで実感できるようにすることが、一貫性を守るということである。
画面の案内やボタン、問題が起きたときの言葉遣いからは、提供する側の態度が伝わる。
その積み重ねが、ユーザーの感じるプロダクトの人格になる。
また、表示のわずかな違い、操作への反応、途中で迷ったときの支え方にも、プロダクトの本性が現れる。
細部まで同じ思想を通すことで、掲げた価値は使う人が触れられる体験になる。
作りながら、残すものを選び直す
AIを使えば、考えた案を短い時間で形にし、実際に試せる。
試して分かったことから、必要な機能を磨くことも、別の方法へ変えることもできる。
案を作る前も、作った後も、届けたい価値に立ち戻って判断する。
誰にどのような状況を届けたいのか。
そのための制約とコンセプトに沿っているか。
使う人との対話として自然で、体験全体で同じ約束を守れているか。
作れるものが増えたからこそ、届けたい価値に合う案を残し、力を注ぐ。
何を作るか、何を作らないかを選び直しながら、使う人に届ける価値を磨いていく。