人が求めているのは、プロダクトの先に生まれる状況である
人が求めるのは、使った先の状況である
人が求めるのは、機能や画面の先で誰かとつながり、何かを理解し、何かを実現できる状況である。
ここまで、思想を具体的な形へ変える設計原理として、コンセプトを考えてきた。
その原理によって、機能、言葉、動き、音、見た目といった異なる領域の判断を、一つの方向へ揃えることができる。
次に考えたいのは、そのプロダクトを使った先で、ユーザーの現実にどのような状況が生まれるのかということである。
プロダクトは、人と人の間に存在する
インターフェースという言葉が示すように、UIは、二つのものの間に存在する接点である。
その一方には、プロダクトを提供する人や企業がいる。
もう一方には、何かを知りたい、何かを実現したいと考えているユーザーがいる。
両者の間に、スマートフォンやアプリ、ウェブサイトといったプロダクトがある。
プロダクトの先に、ユーザーが望むどのような状況を生み出したいのか。
その状況を具体的に思い描くことで、プロダクトが果たす役割も見えてくる。
誰かとつながり、知りたかったことを理解する。
自分で判断できるようになる、手間が減って大切なことに時間を使えるようになるなど、望む変化は人や場面によって異なる。
ユーザーは、その変化が生活や仕事の中に生まれたとき、プロダクトの価値を実感する。
だからこそ、プロダクトを設計するときには、画面の内側から、ユーザーの現実にどのような変化を生み出したいのかまで視野を広げる必要がある。
使う場面と、その先に生まれる状況を思い描く
コンセプトをもとに、機能や言葉、色や形、操作方法、動き、音を決めていく。
そのとき、ユーザーが画面を見ている瞬間から、使った先に何が起きるかまでを思い描く。
ユーザーはどこにいて、周りには誰がいるのか。
何をしながら使い、何を実現したいと考えているのか。
プロダクトに触れたあと、その人や周囲にどのような状況が生まれるのか。
使う場面を具体的に描くことで、何を見せ、どのように操作できるようにし、どのような応答を返すかを判断できる。
そのために、まずユーザーがいま置かれている状況と、プロダクトを通して生み出したい状況を描く。
さらに、使う前、使い始め、慣れてきた頃、使い続ける頃へと時間を追い、それぞれの場面で状況がどう変わるかを考える。
こうして、画面の中だけでなく、ユーザーが置かれた状況に合わせてコンセプトを具体的な設計へ反映する。
これが、UI/UXを設計するときの基本的な思考プロセスである。
現在の状況から、望ましい状況を描く
生み出したい変化を設計へつなげるには、ユーザーがいま置かれている状況を捉える必要がある。
現在、ユーザーはどこで困っているのか。
何が分からず、どの判断に迷い、どこで行動を止めているのか。
どのような不安や面倒を感じながら、既存の方法を使っているのか。
こうした問いから、ユーザーが現在置かれている状況を捉える。
次に、そのプロダクトと関わった後に、どのような状況を生み出したいのかを考える。
迷っていた人が、判断できるようになる。
時間をかけていた人が、必要なことへ集中できるようになる。
一人で不安を抱えていた人が、次に何をすればよいか理解できるようになる。
この状況の変化こそ、プロダクトが生み出したい体験の中心にある。
現在の状況と理想の状況を並べることで、変えるべきことが具体的になる。
現実にある状況と、生み出したい状況の間を、プロダクトがどのようにつなぐのか。
その変化の過程を描くことが、UX設計の入り口になる。
利用前から、使い続ける時間まで描く
プロダクトが生み出す状況は、使う前から、使い続けるまでの時間の中で捉える。
ユーザーとプロダクトの関係は、時間とともに変化するからである。
まず、まだ使っていない段階がある。
ユーザーは、どのような出来事をきっかけにプロダクトを知るのか。
何を期待し、同時に、どのような不安や疑いを持つのか。
使う前の状況を理解することで、最初の説明や入口の設計を決められる。
次に、使い始める段階がある。
初めて触れた人は、どこを見ればよいのか。
何ができるプロダクトなのかを、どの瞬間に理解するのか。
最初の価値を、どれほど早く実感できるのか。
この段階では、初めて使う人が迷わず進めるよう、説明や支援を用意する。
さらに、何度か使い、操作に慣れてきた段階がある。
ユーザーは説明を読まなくなり、より速く目的を達成したいと考える。
最初は安心につながった案内が、やがて煩わしさになることもある。
そのため、初回の分かりやすさと、習熟した後の効率を合わせて考える。
そして、数か月、あるいは数年にわたって使い続ける段階がある。
プロダクトが日常の中へ溶け込んだとき、どのような価値を提供し続けるのか。
同じ操作を繰り返すだけで価値が薄れていくのか。
それとも、使い続けるほど理解が深まり、信頼や愛着が育つのか。
UXでは、使う前の期待から、使い始め、関係が続くまでの時間全体を設計する。
状況を描けば、要件は自然に見えてくる
状況を十分な解像度で描けるようになると、必要な機能やUXの要件が、そこから見えてくる。
移動中に片手で使うなら、操作を少なくし、押す場所を明確にする。
重要な申込みを行うなら、判断に必要な情報と、完了後の状態を明確に示す必要がある。
このように、状況が具体的になれば、機能、情報、言葉、動き、音、見た目に求められる条件が見えてくる。
思想からコンセプトが生まれる。
コンセプトから、生み出したい状況を描く。
その状況から、具体的な設計要件が導かれる。
思想は、プロダクトの存在理由を定める。
コンセプトは、その思想を実現するための設計原理を定める。
その設計原理を手がかりに、ユーザーが今何に困り、プロダクトとの関わりを通して何を理解し、何ができるようになるかを描く。
そして、機能やUIは、その状況を生み出すための具体的な手段になる。
生み出したい状況から要件を選ぶことで、一つひとつの機能が何のためにあるのかを説明できる。
その判断を重ねることで、最上段の思想が、プロダクトの細部まで一貫して反映されるようになるのである。
価値は、ユーザーの現実に生まれる
プロダクトを知り、使い始め、目的を達成する。その一連の時間を通して、ユーザーの現実にどのような変化が生まれるだろうか。
他者とつながる。知りたかったことが分かる。自分で納得して、次の行動を選べる。
そうした変化は、画面を閉じたあとも、その人の生活や仕事の中に残る。
画面や機能は、その変化を生み出すための接点と手段である。
プロダクトの価値は、画面を通して、ユーザーの現実に生まれる。
だから、プロダクトを評価するときにも、画面の出来栄えとともに、その先で人が何を理解し、誰とつながり、何を実現できたのかを見る必要がある。