UI/UXの本質10 / 16

言葉は、プロダクトの人格である

言葉も、UIとともに設計する

アプリやウェブサービスを作る現場では、機能や画面構成、見た目のデザインには多くの時間を使う一方で、画面の見出しや説明文、ボタンの文言、エラーメッセージをどのような言葉遣いで伝えるかは、制作の最後にまとめて決められることが少なくない。

UXという視点で考えると、画面の言葉遣いも体験を形づくる。

UIは、ユーザーとプロダクトの間に生まれる対話である。対話である以上、そこで使われる言葉には、プロダクトを提供する企業の考え方や態度が現れる。

見出しは何を見るべきかを伝え、ボタンは次の行動を示し、確認文は判断に必要な情報を渡す。言葉が変われば、ユーザーの理解も行動も変わる。

何を選ぶとどうなるのかを言葉で明確にすることで、ユーザーは画面を理解し、次の行動を選べる。

だから、言葉は情報の順番や機能の振る舞いと同時に考える。言葉もUIそのものなのである。

ユーザーは、言葉を通して企業の人格に触れる

ユーザーは、アプリの画面に書かれた案内やメッセージも、その企業からの言葉として受け取る。

サービスを紹介する言葉。操作を促す言葉。購入を確認する言葉。問題が起きたときに状況を説明する言葉。

その一つひとつを通して、ユーザーは、この企業が自分をどのように扱うのかを感じ取っている。

丁寧に説明する企業なのか。迷っている人を急かす企業なのか。問題が起きたときにも誠実に向き合う企業なのか。

企業の姿勢は、理念として掲げられた大きな言葉よりも、ユーザーが日常的に触れる小さな言葉に現れる。UIに置かれる言葉は、企業やプロダクトの人格を伝える重要な接点なのである。

広告、ウェブサイト、店舗、問い合わせ窓口、アプリも、ユーザーにとっては同じ企業との接点である。どの接点でも同じ思想と態度が感じられることで、企業が何を大切にしているのかが伝わる。

親しみやすさを大切にするなら、紹介画面では使う楽しさを伝え、購入画面では必要な条件を分かりやすく説明し、エラー時には落ち着いて次の行動を案内する。

場面に応じて言葉の役割を変えながらも、ユーザーに対する態度、判断の基準、声の温度を一貫させることが重要である。

言葉遣いが、プロダクトの人格を形づくる

ふさわしい言葉遣いは、プロダクトの思想によって変わる。

新しい挑戦を大切にする企業であれば、次の一歩を後押しする言葉が必要になる。安心や信頼を届けるプロダクトであれば、状況を明確に伝え、納得して判断できる言葉を選ぶ。

言葉遣いは、最上段にある思想と、それを具体化したコンセプトから決めるものである。

目指す態度を「親しみやすい」「誠実な」「前向きな」といった言葉で示したら、実際の場面でどの言葉を選ぶかまで決める。

親しみやすさを大切にするなら、専門用語を初めて使う人にも理解できる言葉へ置き換える。誠実さを大切にするなら、ユーザーに不利な条件ほど隠さず、判断の前に伝える。前向きさを大切にするなら、失敗を責めず、次にできる行動を示す。

その判断を、語彙、敬語、一文の長さ、ユーザーの呼び方、依頼、確認、警告、謝罪といった場面ごとのルールへ落とし込む。使う言葉だけでなく、使わない言葉も決める。

さらに、「保存」「登録」「完了」はそれぞれ何が起きた状態なのか。「戻る」「閉じる」「キャンセル」は入力を残すのか、破棄するのか。短い言葉ほど、機能の定義と結びつけて決める。

こうして判断を具体化しておけば、複数の人が制作に関わっても、場面に応じて言葉の役割を変えながら、ユーザーに対する態度と声の温度を揃えられる。

人格を場面の言葉へ変える思想に基づく人格を、各場面での判断に変え、その判断から言葉を選ぶ。 思想・人格 場面ごとの判断 実際の言葉
人格を場面の言葉へ変える思想に基づく人格を、各場面での判断に変え、その判断から言葉を選ぶ。 思想・人格 場面ごとの判断 実際の言葉

ユーザーは、画面の言葉遣いに繰り返し触れるうちに、プロダクトの態度を感じ取る。

たとえば、判断を急かさない案内からは「このプロダクトは自分を急かさない」と感じ、問題が起きたときの説明からは「誠実に説明してくれる」と感じる。

その積み重ねがプロダクトの人格を形づくり、やがてブランドとして認識される。

この一貫性は、ユーザーが次の場面を予測する助けにもなる。以前と同じ言葉が使われていれば、同じことが起きると考えられる。初めて見る場面でも、これまでに触れてきた人格から、プロダクトがどのように応答するかを想像できる。

言葉が整っていると、ユーザーは余計な意味を推測せず、プロダクトの意図を理解し、安心して次の判断へ進める。

不安が生まれる場面ほど、人格が現れる

プロダクトの人格は、すべてが順調なときよりも、ユーザーが迷い、失敗し、不安を感じているときに強く現れる。

入力を間違えたときには、何が起き、どこを直せばよいのかを説明する。

決済が完了しなかったときには、処理の状況を落ち着いて伝え、次にできることを示す。

退会、解約、返金を選んだときにも、本人の判断を尊重し、必要な条件と手続きを明確に伝える。

ユーザーが知りたいのは、何が起きたのか、自分の情報や支払いはどうなっているのか、次に何をすればよいのかである。状況に応じて謝罪し、判断に必要な情報を、必要なときに渡す。その態度に人格が現れる。

安心や誠実さを思想として掲げるなら、難しい場面ほど、その思想に沿った言葉を使う。ユーザーが最も助けを必要としている瞬間に、企業の人格は伝わるのである。

言葉も、対話の中で磨き続ける

言葉遣いの原則は、実際の利用場面で確かめながら磨いていく。作り手には分かりやすい言葉がユーザーには伝わりにくいことも、安心を意図した表現が不安につながることもある。

ユーザーは直前に何をしようとし、どのような不安や期待を持ち、そのあとに何が起きるのか。言葉を、その前後を含む一連の対話として確かめるのである。

特に、購入、決済、保存、削除、解約のように結果への不安が大きい場面では、実際の操作と一緒に言葉を確かめる必要がある。同じ文章でも、置かれる状況が変われば受け取られ方は変わるからである。

ユーザーがどこで立ち止まり、どの言葉を別の意味に受け取り、何を繰り返し尋ねているのかを観察する。

表現を変えるときには、クリック率とともに、伝わり方が企業の人格や長期的な信頼に合っているかも確かめる。

思想と人格を判断の軸として守りながら、より正確に伝わる言葉へ研ぎ澄ます。言葉の設計とは、ユーザーとの対話を重ねながら、プロダクトの人格を育て続けることなのである。