企業の仕事は、判断へ移っていく
人間が目的を定め、AIが制作を進める
ここ数か月だけを見ても、AIを使ったプロダクトの作り方は大きく変わってきた。
これまでは、人間が画面を作り、コードを書き、必要な機能を一つずつ実装することに、多くの時間を使ってきた。
今は、誰のために何を作り、どのような場面で使えるようにしたいのかを人間が伝えると、AIが画面やコードを作り、動かせる形にするところまで進められるようになってきている。
人間は、できたものを実際に使い、目指した体験になっているかを確かめる。そこで気づいた問題や改善したい点を具体的に伝え、AIが修正したものを再び試す。
こうして、人間が目的を定め、使って判断しながら、AIとともにプロダクトを作り上げる進め方が広がり始めている。
制作をAIが担うとき、企業は何を基準に、作るものや世の中へ出すものを選ぶのか。そこで重要になるのが、本書の冒頭で考えた思想である。
AIを作る企業のコードも、AIが書いている
Claude Codeを開発するAnthropicは、2025年8月に社内のエンジニアと研究者132人を調査し、回答者が仕事の約六割でClaudeを使っていると報告した。
さらに同社は、2026年5月時点で、自社のコードベースへ統合するコードの八割以上をClaudeが書いたと公表している。いずれもAnthropic自身の開発現場についての報告である。
その過程では、人間が実現したいことを伝え、AIが書いたコードを確認したうえで採用している。AIが制作を進める力と、人間が何を作り、何を採用するかを決める仕事が組み合わさっているのである。
AIを作る現場でも、AIが制作の一部を担うようになっている。制作を任せられる範囲が広がるほど、人間が何を実現しようとしているのかが重要になる。
判断の基準になるのが、思想である
AIが作ったものを前にしたとき、画面が見やすいか、機能が正しく動くかを確かめる。そのうえで、企業は、それを自分たちのプロダクトとして届けるかどうかを決める。
新しい機能を加えるのか。操作を減らすのか。便利になるとしても、使う人の安心や信頼のために守るべきことは何か。
こうした選択には、何を良いとするかの基準が必要になる。
その基準になるのが、思想である。思想とは、そのプロダクトがなぜこの世界に存在するのかという問いへの答えである。
誰の、どのような状況を変えたいのか。その人へ、どのような価値を届けたいのか。そこが明確であれば、機能を加えるときにも、画面を変えるときにも、その目的に近づくかどうかを確かめられる。
同じ技術を使っても、何を優先し、何を守るかによって、生まれる体験は変わる。思想があることで、多くの選択肢から、そのプロダクトに必要なものを選べるのである。
ここでいう判断とは、思想に照らして、何を作り、何を直し、何を世の中へ届けるかを選ぶことである。
思想を、制約とコンセプトへ具体化する
AIへ制作を任せるときには、ここまで考えてきた思想、制約、コンセプト、ユーザーの状況を、具体的に伝える。
誰に、どのような価値を届けたいのか。そのプロダクトの思想を明確にする。
その価値を実現するために、何を優先し、何を作らないのか。守るべき制約を定める。
その制約のもとで、何を設計の原理とするのか。コンセプトを定め、機能、言葉遣い、見た目、動きの判断を揃える。
誰が、どのような状況で使い、使った先にどうなってほしいのか。利用する場面と、生み出したい状況を具体的に描く。
これらを言葉にしてAIへ伝え、作られたものが思想に沿い、制約を守り、目指した状況を生み出せるかを確かめる。その結果をもとに、次に何を直し、何を残すかを判断する。
思想を制約やコンセプトへ具体化しておけば、制作を担う人やAIが変わっても、共通の基準でプロダクトを育てていける。
何のために作るかを、企業が引き受ける
多くの企業が同じようにAIを使える時代には、誰のために何を実現するかという意志が、プロダクトの違いを生む。
そのプロダクトによって、誰の生活や仕事がどう変わるのか。使う人に、何を約束するのか。その約束を、実際の体験として守れているのか。
企業は、その答えを持ち、日々の制作と改善を通して実現していく必要がある。
本書の冒頭では、誰もがUIを作れる時代に、何を世の中へ出すかを決める人間の判断が、プロダクトの違いを生むと述べた。その判断を支えるのが、そのプロダクトを存在させたい理由であり、思想である。
思想が明確であるほど、AIが生み出す多くの可能性を、届けたい価値へ向けて使うことができる。技術や作り方が変わっても、何を守り、何を変えるかを、その理由に立ち戻って考えられる。
企業の仕事が判断へ移るということは、自分たちの思想を持ち、それを一つひとつの選択で実現することが、ますます重要になるということである。