人間を理解することの価値は、さらに高くなる
機械に、人間が合わせていた時代
歴史を振り返ると、1980年代のデジタル製品には、機械の機能を使うために、人間が操作を覚え、その仕組みに合わせる場面が多くあった。
操作が難しくても、その方法を人間が覚える。
分かりにくくても、何とか使いこなせるように人間が努力する。
それまでできなかったことが、機械によってできるようになる。
その便利さが大きかったから、人間の側が努力して使い方を身につける価値があったのである。
人間が使いやすいように、機能を作る
そこから少しずつ、人間中心設計という考え方が広がっていった。
人間が使いやすいように、機械や機能を作る。
人間は、どのように情報を理解するのか。
どうすれば迷わず操作できるのか。
どうすれば、覚える負担を減らせるのか。
1990年代から2000年代にかけて、こうした人間の使いやすさを考えることが、プロダクトを作るうえで重要になっていった。
機能の便利さに加え、人間が自然に使えることまで設計する。
こうした考え方が広がるにつれ、プロダクトを作るときの重心も変わっていった。
人間がどのように考え、どのように行動するのかを理解し、それに合わせて必要な機能や使い方を考える。
作り手が人間へ歩み寄り、自然に使えるよう設計することが重視されるようになった。
プロダクトづくりの視点は、機能だけを見るところから、それを使う人間を見るところへ移っていったのである。
使いやすさの先に、感情と心理がある
そして今では、使いやすさは、プロダクトに求められる基本的な条件になりつつある。
その先で重要になるのは、プロダクトを使っている瞬間に、人間が何を感じ、その時間にどのような価値を見いだすかということである。
使っているときに、どのような感情になるのか。
どのような心理になるのか。
そして、その体験の中で、何に価値を感じるのか。
同じ機能を持ち、同じように使いやすいプロダクトであっても、使う間に生まれる感情や心理によって体験は変わる。
操作できることと、その時間に価値を感じることは、別の問題だからである。
目的を達成できたとしても、その過程で不安を感じることがある。
反対に、同じ操作であっても、気持ちよく進められたり、自分のことを理解してくれていると感じたりすることもある。
こうした感情や心理まで含めて、使う人の体験は成り立っている。
使いやすさの先へ進むためには、人間そのものを分析し、理解し、探求する必要がある。
その理解から、優れた体験を生み出すのである。
自分で作り、自分で使って確かめる
AIを使えば、自分の仕事や生活のための小さな道具を思いついた日に形にし、自分で使い始めることもできる。
ここで確かめられるのは、機能が動くかどうかだけではない。
使う前に、何を期待したか。操作の途中で、どこに迷ったか。使い終えたとき、安心したか、それとも不安が残ったか。
自分で作ったものを自分で使うと、画面を作っているときには見えなかった感情の変化に気づける。
たとえば、入力した内容を保存したあと、結果が見えずに不安になったとする。その不安を手がかりに、自分が何を失うかもしれないと感じ、何を確かめられれば安心して次へ進めるのかまで考える。
作ってすぐに使えるからこそ、こうした気持ちの動きを、その場の出来事と結びつけて捉えられる。
感じたことをAIへ伝え、次の設計に生かす
その気づきを、AIへ具体的に伝える。
どのような状況で、何をしようとしていたのか。画面で何が起き、何を感じたのか。なぜそう感じたと思うのか。そして、どうなれば安心して先へ進めたのか。
たとえば「保存した直後、結果が見えず、入力が残っているか不安になった」と伝える。AIには、表示を加える案だけでなく、その不安が生まれる場面や、使う人が確かめたいことも一緒に考えさせる。
作り手が実際に感じたことを言葉にするほど、AIは、操作の手順に加えて、その場面で働く感情や心理を判断材料にできる。
気づいた場面と設計の判断を記録し、次にUI/UXを考えるときにもAIが参照できるようにしておく。使って確かめ、感じたことを伝え、設計を直す。その積み重ねによって、AIとともに考える体験の質も高められる。
自分の体験から得た気づきは、人間を理解するための出発点になる。さらに、ほかの人が同じ場面で何を感じるかを確かめることで、その理解を広げていける。
機械に人間が合わせていた時代から、人間に合わせて機械を作る時代へと、設計の考え方は変わってきた。
その歩みをさらに進めるには、操作のしやすさに加え、使う人の不安や期待、安心や喜びまで理解する必要がある。
AIによって、考えたことを形にする力は、より多くの人が持てるようになる。
そこで生まれる体験の違いを左右するのは、作り手が人間をどれだけ深く理解し、その理解を設計に生かせるかである。
自分やほかの人が使う姿に目を向け、何を感じ、なぜそう感じるのかを捉える。その理解が深まるほど、AIへ伝えられることも、プロダクトを通して実現できることも豊かになる。
作る力が広く行き渡る時代だからこそ、人間を理解することの価値は、さらに高くなるのである。